7月中旬に演奏会でピアノを弾いてきたので準備のタイムラインを記録に残しておこうと思う.1月の時の準備の様子はこちら.
選曲
今年は珍しく人前で演奏する機会が多く,
- 1月:Scriabin Etude Op.2-1/42-7, Liszt Mephisto Waltz No. 4
- 2月:Elgar Cello Concerto (ピアノ伴奏)
- 3月:Chopin Ballade No. 2 (以前やっていて,再演)
と3月まで短めのスパンで色々な曲を準備してきた.3月の演奏会が終わって次に7月にまた出ることになって準備は4ヶ月程度,はて何をやろうかといくつかの選択肢を検討し,1月と同じく3曲構成にしようと思い立ってメインとなる曲を選定しにかかった.第一候補はScriabinのPolonaise Op. 21だった.Scriabinの初期の中規模曲で,浮遊感のある音響とポロネーズらしいかっこよさが同居した佳曲だ.パラパラ練習を始めてみたものの,初期のScriabinらしく和音が重く,特にオクターブを超える和音をガンガン弾かないといけないのでちょっと4ヶ月では大変そうだと判断して譜読みだけして別の曲を選ぶことにした.

次に検討したのがChopinのBallade No. 4だ.これはコーダが大変すぎるので今まで敬遠していたのだが改めて譜読みしてみると意外と弾けるやんということがわかり,これをメインとすることにした.なんだかんだまだまだ成長しているらしい.これでBalladeは1-4番まで通しでレパートリーに加わることになってキリが良いという意味もある.
残りの2曲は以下のような候補を検討した.
- Philip Glass Etude No. 2/5/6/9
- Rautavaara Etude Op. 42-1/42-4
- Scriabin Etude Op. 8-4/42-3
- Chopin Etude Op. 10-3/25-2
- Medtner Forgotten Melodies, Op.38-6
- Prokofiev Op. 4-4 “Suggestion Diabolique”
- Feinberg Piano Sonata No.3 Mov. 2
- Ornstein Piano Sonata No. 4 Mov. 2
このうちFeinbergとOrnsteinはとてもじゃないがアマチュアがBalladeと同時にやる曲ではないということが早々に判明し(笑),ChopinとScriabinは最近やりすぎだなと思ったのでGlassとRautavaaraを選択.細かい曲は実際に楽譜を見てフィーリングの合ったGlassのNo. 6とRautavaaraのOp. 42-4にした.曲順は単純に簡単な順として
- Philip Glass Etude No. 6
- Rautavaara Etude Op. 42-4
- Chopin Ballade No. 4
の順とすることにした.曲を決定したのが3月頭くらいである.
練習
私は譜読みがめちゃくちゃ遅いので最初どれくらいの速度で譜読みできるかで残りの練習時間が決まる.ところがGlassとRautavaaraの楽譜は非常に人工的で,暗譜が数日で終わってしまった.これは良い意味で誤算だった.Glassのミニマリズムな譜面も,Rautavaaraの幾何学的な譜面も,どちらも鑑賞しているだけで綺麗で楽しめる.
ということで残りはBallade No. 4に集中して3月いっぱいで暗譜を終わらせた.4番はポリフォニーや転調・クロスリズムのオンパレードで複雑と言われることが多いが,あくまでChopinとしては複雑ということであって,最近色々近現代曲に取り組んできたからか譜読み自体は超大変という印象はなかった.
4月から速度と精度を上げる練習に入った.以下各曲個別にポイントとなりそうな場面を簡単に取り上げよう.
Glass Etude No. 6
GlassのEtudeは全20曲で,そのうち前半の10曲はエチュード的性格が強く後半の10曲はより抒情的な作品が並ぶ.各曲の作曲年次がバラバラなのでGlassの音楽的な変遷が反映されていると言えるだろう.
No. 6はエネルギッシュでスピーディな同音連打が駆動するメロディに始まる.連打の推進力に乗ってメロディは途中から2:3クロスリズムのうねりに変化する.そしてこの曲の代名詞とも言える華麗なオクターブによるメロディが繰り返し現れる.ミニマリズムらしいストイックさとロマン派のようなダイナミクスが共存するキャッチーな曲だ.GlassのEtudeの中でも取り上げられる機会の多い曲だと思う.技術的には同音連打を綺麗に聞かせることと,途中の爆発的なオクターブの飛びを正確に処理できればたいして難しくないので多くの人におすすめできる.ただこのオクターブのメロディ,繰り返しが多くて全部で10回弾かないといけず,毎回外さずに弾くのは相当大変だと感じた...まだまだ腕が足りない.

Glassは2:3のクロスリズムが多いのだが,はっきり言って2:3は技術的には難しくないのでクロスリズム入門としても適しているように思う.

ということで,この曲は(もちろんプロのような精度を目指すなら別だが)そこまで技術的にやりこむことがなく,最初の数週間で悪くなさそうな形になった.ただし,音を出すのは簡単なのだが正確に弾かないとミニマリズムらしい恍惚感や浮遊感が生まれないという問題があって,最終的な出来栄えは微妙だったと言わざるを得ない.簡単そうに見えてちゃんと聴衆を惹き込むのは難しい,そんな曲だと感じた.
Rautavaara Etude Op. 42-4
Glassが良い感じになってきたので次に取り組んだのがRautavaaraで,こちらはGlassよりももう少し複雑で難しい.RautavaaraのEtude Op. 42は和音の音程(二度,三度,四度,五度,六度,七度)がテーマになっているエチュード集で,No. 4は4度がテーマになっている.冒頭はRautavaaraらしく,両手で取る広い分散和音に乗せて北欧風味の透明感あるメロディを右手で奏でる.個人的にはこの冒頭がこの曲の白眉だ.

続いて右手はこの曲のテーマである4度の和音に移行する.ここでも右手でメロディ,左手(+右手)で分散和音という基本構造は変わらないが響きはより現代的になってくる.

4オクターブに渡る分散和音を経て曲調は激しさを増していき,Rautavaaraらしい和音の連打で大爆発を迎える.

その後も両手による激しく幅広い分散和音が曲を支配し,最後は最低音まで使う現代らしいスケール感で幕を閉じる.

技術的にはとにかく分散和音を正確に弾ければあまり難しくない.指定速度が結構早いのだが,この曲はテンポを落として遅めに弾いても迫力が損なわれない.というわけで速度を上げるのは諦めて一旦1ヶ月くらいでそこそこの形にした.こういうところでいかに手を抜くかがアマチュアの腕の見せ所である(笑.取り組んだ感覚としてはChopinのEtudeより一段簡単でそれでいてめちゃくちゃカッコよい曲なので,もっと弾かれてもよいと思った.
Chopin Ballade No. 4
今回一番問題だったのがBallade No. 4だ.当たり前だが練習にも一番時間がかかった.そもそも全体で16ページ(パデレフスキ版)もあって長くて嫌になる.バラードの中でも最長だ.とはいえ全編高難度というわけではなく,大きな技術的な難所は以下の3つのパートに詰まっている.(ページ数はパデレフスキ版)
- 4P 第一主題の変奏:ポリフォニーの処理が大変
- 7P 第二主題からの移行部:1-4や2-5が多用されて弾きにくい
- 15P コーダ:特に最初の7小節はめちゃくちゃ弾きにくい
一箇所目は第一主題が変形される部分で,ここは音は出せるがポリフォニーを処理して主旋律を響かせるのが難しい印象.というのも小指がメロディラインになっていて,意識しないと内声をとる親指にかき消されてしまうのだ.この手の弾きわけは電子ピアノだと練習にならないので定期的にスタジオでグランドピアノで集中的に練習した.

二箇所目は第二主題が出てきた後の遷移句的な部分だ.ここは1-4や2-5でとる和音をそこそこ早い速度でクリアに聴かせる必要があり,単純に技術的に難しいと感じた.左手の装飾的なトリルも地味に難しい.聴衆からすると簡単そうに聞こえるところが難しいというピアニスト泣かせな部分が多い曲だ...

最後は難易度ウルトラCのコーダ.特にコーダは最初が難しく,はっきり言ってこの部分は練習時間が足りなかった(ので速度を落として誤魔化した).特に三度で上がっていくところはプロはみんなよくあの速さでクリアに弾けてるなと感心する.ここの運指は版によっても結構バラバラだったのでみんな色々試行錯誤しているのだろう.いくつの楽譜を見比べて研究してみる価値があると思う.

ということでこの3箇所を集中的に練習して子供騙しで止まらずに弾けるようにした.幸いなことにバラード4番も多少速度が遅くても聴き映えがするので特にコーダは安全運転を心がけた.
まとめ
人前で弾くのは今年4回目でなかなかのハイペースでピアノに時間をつぎ込んでおり,社会人になってからだと一番趣味を楽しんでいる感じがある.もちろんあんまり趣味にうつつを抜かしていると本業に支障が出るのでほどほどにしないといけないのだが...特に今回,以前からやりたかったBallade No. 4に取り組めたのはよかった.次はまた2-3ヶ月くらいで節目になるのでそこに向けて選曲していきたい.(色んな曲を漁って選曲している時が一番楽しかったりする...)



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